インパクトの可視化

アサヒグループは自然の恵みを享受し事業を行う企業グループとして、サステナビリティの施策がもたらす事業インパクトや社会インパクトを定量的に把握することを目的として、インパクトの可視化に取り組んでいます。これにより重要な指標を特定し、その指標を施策の優先順位の決定や投資判断、進捗管理に組み込むことで事業の持続的な成長を実現し、社会へのプラスインパクトをさらに創出できると考えています。

取り組み テーマ 検証に使用した分析手法
2022年に検証した取り組み 施策が企業価値向上につながる価値連鎖の道筋を仮説検証し、全体像を把握する
(「価値関連図」を作成し、検証する)
  • 環境
  • コミュニティ
  • 責任ある飲酒
  • 人的資本の高度化
価値関連性分析 さまざまな施策から企業価値向上までの価値連鎖の道筋の仮説から、相関関係を単回帰分析で検証する手法
俯瞰型分析 『柳モデル』を活用し、複数の指標と企業価値(PBR)の直接的な関係を重回帰分析で検証する手法
将来に向けた取り組み
(試行段階)
施策による事業インパクトを財務的に可視化する - 開発段階 -
社会インパクトを可視化する 責任ある飲酒 インパクト加重会計 企業が従業員や顧客、環境など社会に対して与える影響を金銭価値に換算する手法
  • 柳モデル : “CFOポリシー 〈第3版〉:財務・非財務戦略による価値創造(中央経済社2023)”、柳(2023)

2022年に検証した取り組み

サステナビリティの施策がどのような事業・社会インパクトを生み出し、どのように企業価値向上へとつながっていくのか、価値連鎖の全体像を把握するため「価値関連図」の作成と検証を行いました。サステナビリティ戦略において重点テーマと位置付けている「環境(気候変動への対応・持続可能な容器包装)」「コミュニティ(人と人とのつながりの創出による持続可能なコミュニティの実現)」「責任ある飲酒(不適切飲酒の撲滅・新たな飲用機会の創出によるアルコール関連問題の解決)」と、「中長期経営方針」の戦略基盤である「人的資本の高度化」の4つのテーマを対象としました。

「価値関連図」の作成と検証

図式化に際しては、その価値を測定する財務・非財務の指標設定とデータ収集を行い、隣接する価値同士の相関関係を単回帰分析で検証する価値関連性分析の手法を採用しました。また、各施策を測る複数の指標と企業価値(PBR)との直接的な相関関係について、重回帰分析で検証する俯瞰型分析も行っています。最後にこの2つの分析結果について、定性的にも信頼できる内容であるかという視点で確認を行いました。

価値関連図

今回の検証により、さまざまな施策の直接的な成果が、マルチステークホルダーとのコミュニケーションを通して、非財務の間接的な価値であるエンゲージメントやコーポレートブランド価値の向上に寄与し、財務価値や企業価値の向上につながっていくことが「価値関連図」の中で実証されました。また、企業価値向上に繋がる価値連鎖において、マルチステークホルダーとのコミュニケーションや顧客満足度向上、従業員のエンゲージメント向上が重要な道筋であることもわかりました。一方で、分析に必要なデータの不足や適合性の低い指標設定などにより、価値のつながりの実証には至らない事例もあり、仮説の再考や改善につながる多くの示唆を得ました。今回取り組んだ「価値関連図」の作成、検証により、インパクトの可視化の取り組みの土台が構築でき、具現化への道筋が見えてきました。この「価値関連図」を進化させ、事業・社会インパクトの可視化につなげていきます。

将来に向けた取り組み

試行段階の「価値関連図」の作成と検証について、2022年の分析結果をもとに、今後強化すべきポイントと将来的に目指す姿を検討しました。

施策による事業インパクトの財務的可視化

2022年は、「価値関連図」上で実証された価値連鎖の道筋の中で、ある施策の実績値が1%向上した場合のトータルの変化量が企業価値向上へ与えるインパクトの算出を試みました。例えば、ある施策によってCO2排出量が1%削減した場合、価値連鎖の道筋を経て、売上収益にどれだけ寄与するかといった試算です。算出結果は得られたものの、「価値関連図」に表せなかった要素の影響を加味できず、納得性に欠ける内容となりました。将来的には、今回の取り組みから得られた課題を改善し、事業インパクトを財務的に可視化することで施策の優先順位の決定や投資判断に役立てることを目指していきます。

社会インパクトの可視化

アサヒグループは、自然の恵みを享受し事業を行う企業として、私たちのビジネスが環境や社会全体に及ぼす潜在的な影響を把握・管理する必要があると考えています。社会に対してプラス・マイナスのインパクトをどの程度与えているのか定量的に把握して初めて、課題と真摯に向き合い、適切な戦略と実効性のある施策を立案することができると考えています。これによってマイナスインパクトの低減とプラスインパクトの増大を実現することができると考え、2022年から社会インパクトの定量的な可視化に取り組んでいます。

取り組み概要

社会インパクトの可視化にあたっては、インパクト加重会計の手法を使用して取り組んでいます。この手法は、環境・製品・従業員という3つの側面から社会インパクトを捉えています。それぞれの側面でプラス・マイナスの価値を貨幣価値に換算し、合算することで、総合的な社会インパクトの可視化が可能となります。2022年は、マテリアリティ「責任ある飲酒」のテーマから、日本事業を対象として取り組みを開始しました。2022年、世界保健機関(WHO)総会でGlobal Alcohol Action Planが採択され、「2030年までの有害なアルコール使用20%削減」が目標として掲げられました。私たちもこれに向けた取り組みを強化するため、大量飲酒などの不適切な飲酒による社会コストの把握と、不適切飲酒を撲滅する施策の効果の把握が必要と考えています。

今後の取り組みについて

社会インパクトの可視化への取り組みの現在地としては、まだ、可視化の足掛かりをつかんだという段階です。まずは、アサヒグループの従業員がサステナビリティの施策に取り組む動機付けとして活用していくとともに、社外に対しては、当社が試行錯誤しながら取り組みを進めていることを伝えていくことで、より多くのステークホルダーを巻き込み、社会課題の解決に向けて共創するきっかけになればと考えています。将来的にはデータやロジックの精度を高め、対象範囲を拡大し、施策評価や投資判断に用いる指標として活用していきます。アサヒグループはこの取り組みの先駆者となるべく挑戦していきます。