嗜好と共に成長する「炭酸水」

シュワシュワと爽やかな刺激で私たちの喉を潤してくれる炭酸。甘くておいしい有糖の炭酸飲料が、贅沢品として高価格で提供されていた時代から、気軽に飲用するようになった現代。そして、無糖の炭酸水が機能性でも選ばれるようになるちょっと未来の話まで。炭酸の歴史をひも解きながら、その嗜好の変化をのぞいてみましょう。

話を聞いた人

  • アサヒ飲料(株)
    研究開発戦略部

    小杉 亘さん

  • アサヒ飲料(株)
    研究開発戦略部

    阿比留 雄一さん

炭酸飲料と炭酸水はどのように普及した?

炭酸はサイダーなど甘い味のある有糖の「炭酸飲料」と、無糖の「炭酸水」(ガス入り水)、大きく2つの種類に分けられます。これらのルーツや日本に普及した時期は異なりますが、まずは炭酸の総合的な歴史からひも解きます。

世界の炭酸の歴史を辿ると、紀元前一世紀にクレオパトラが飲んだのが始まりなど諸説ありますが、日本では1881年に〈三ツ矢サイダー〉の前身となる「平野水」が兵庫県で発見され、飲用に適していると確認されたのが最初です。その後1900年前後には〈三ツ矢シャンペンサイダー〉という名前で瓶詰めの販売が開始され、〈ウィルキンソン タンサン〉の前身となる無糖の炭酸水〈仁王印ウォーター〉も登場しました。ただ、当時は今のように炭酸が日常的な存在ではなく、訪日外国人やお金持ち、地位のある日本人しか手が届かない贅沢品でした。価格も現在の約10倍で、贈答品としても人気だったそうです。

炭酸が一般家庭に広がったのは1950年頃。戦後の高度成長期に合わせて、サイダーやジンジャエールなど有糖の炭酸飲料が一気に普及しました。なかでも〈三ツ矢サイダー〉は炭酸の刺激と甘さを楽しむ嗜好品として需要が急上昇し、十分な生産が追い付かず、謝罪広告を出すほどの人気に。

一方で無糖の炭酸水は少し遅めの普及でした。ヨーロッパでは、ガス入りのミネラルウォーターを食事の際に飲む習慣が古くからあったものの、以前の日本に同様の習慣はほとんどありませんでした。しかし、1979年「東京サミット」のテーブルウォーターとして炭酸水が採用され、無糖の炭酸水の直接飲用が徐々に認知されていきます。ただ、炭酸水はウイスキーなどお酒の割材としての役割が主流だったため、一般家庭での飲用が認知されたのは本当にここ最近の話です。

大きな転機となったのは2011 年。アサヒ飲料社にて、炭酸水のペットボトル販売を全国で展開したことで、炭酸水を直接飲用する文化が国内で一気に広がりました。「炭酸水ってお酒を割るだけじゃなかったんだ」「そのまま飲んでもいいんだ」と話題を呼び、海外では当たり前だった文化が日本でもやっと定着していったのです。アサヒ飲料社では、2008年からの10年間で炭酸水の売上が10倍に跳ね上がっています。他社も次々に直接飲用の炭酸水市場に参入し、2018年は“炭酸水戦争”と呼ばれるほどに盛り上がりを見せました。

研究結果で明らかに! 炭酸水に込められた潜在能力

強炭酸水は集中度向上にも効果あり!

長い歴史を経て、近年やっと多くの方に飲まれるようになった無糖の炭酸水ですが、お客さまが炭酸水を選ぶ理由をリサーチすると、飲んだときに「スッキリする」「気分転換できる」といった、実体験に基づく感想があがります。そこで、その効果が単なる感覚的な印象に過ぎないのか、それとも科学的に証明することができるのかを調べるため、研究機関と共同で試験を実施しました。

まず理化学研究所との共同研究では、健康な就労者29名に精神負荷のかかるパソコン作業を行ってもらい、前後半(45分ずつ)の作業の間に、水・弱炭酸水・強炭酸水の3種類を飲んだときの主観的評価を調査しました。その結果、特に強炭酸水を飲用することによって、意欲やリラックス感の低下が抑制され、さらに眠気も抑制されることが分かりました。

なぜこのような効果があるのかを調べるため、今度は慶應義塾大学と共に脳波解析を用いた研究に取り組み、炭酸水を飲んだときの感性の変化を可視化しました。結果として強炭酸水を飲んでいるときは、水を飲んでいるときに比べて覚醒度が上がり、飲んだ後は集中度も上がる(上図)ことが分かってきました。

その他、現在進行中の研究でも新たな効果が証明され始めており、炭酸水の需要や期待値はこれからさらに高まっていくかもしれません。とはいえ、炭酸水が持つイメージはまだまだ「刺激」がメインで、「ココロやカラダに良い効果がある=機能性」という面では認知が低い状況です。研究者たちは、今後ますます生活者の嗜好やニーズが多様化していくなかで、炭酸水の持つ「機能性」の価値は欠かせない要素になってくると考え、その価値を証明するための研究に取り組んでいます。

機能性で広がる炭酸水の新たな飲用シーン

爽快な刺激感にくわえ、新たな飲用ベネフィットも期待できることが認知されれば、炭酸水はより多くの方に選択される飲料へと成長を遂げるでしょう。覚醒するという点では、カフェインを摂取できない方にとっての、コーヒーの代替品になるかもしれません。リフレッシュしたいけれどアルコールは摂取したくない日には、炭酸水で代用するのも良いでしょう。

今後研究者たちは、さらに炭酸水がもたらす効果の検証について注力し、お客さまに炭酸水を選んでいただく根拠を示すことで、いずれ「炭酸水でライフスタイルを変える」という新たなメッセージを発信していきます。それにより、オフィスワーカーや学生、健康志向のお年寄りまで、ターゲットや飲用シーンもさらに広がっていくと考えています。何よりも、これらの機能は何かの要素を後から付加しているのではなく、炭酸水がもとから持っていた潜在的な機能という事実も大きな魅力かもしれません。

人生100年時代。体のために何を選択し、摂取していくのかが問われる時代で、飲料メーカーとして、炭酸水の新たな可能性で社会課題の解決に貢献していきたいと考えています。

【 年表 】世界とアサヒ「炭酸の歴史」

関連リンク

■アサヒ飲料 研究開発サイト
https://www.asahiinryo.co.jp/rd/

■〈ウィルキンソン タンサン〉歴史ページ
https://www.asahiinryo.co.jp/wilkinson/sp/history/