【ビール考】グローバル展開編

ビール好きがビールを飲みながら語りたい、ビールのあれこれ。今回注目するのは、ビールやノンアルコールビールの「グローバル展開」です。近年ヨーロッパ、豪州、東南アジア・中国を中心に、グローバルへ事業を拡大する裏側には、嗜好の違いを乗り越えながら、新たなシナジーを生み出すための努力がありました。

話を聞いた人

  • アサヒグループホールディングス(株)
    Strategy

    久保田 順さん

〈アサヒスーパードライ〉が世界で愛される裏側

1988年の海外初進出以来、〈アサヒスーパードライ〉は世界50ヵ国で同じ味と品質で提供されています。国によって食文化が異なるなか、日本食が浸透している国では、味覚の嗜好性が日本人と近いこともあり、売上が伸びています。

世界各国で親しまれている〈アサヒスーパードライ〉ですが、特に鮮度の良い状態での提供を目指しているため、日本の工場で製造したものを輸送するのではなく、可能な限り販売エリア付近での製造を試みています。各国の工場で現地の水や原料を使用しながら「日本で飲む〈アサヒスーパードライ〉と全く同じ味の提供」を目指し、技術開発を続けています。

2020年6月より〈アサヒスーパードライ〉の一部商品の生産を開始した、イタリア「Birra Peroni社」のローマ工場

現在〈アサヒスーパードライ〉はオーストラリア、イタリア、中国など世界7つの製造拠点でつくられています。しかし、同じビール酵母を使い、同じ処方でビールをつくっても、気候や水、材料の原産国が異なると同じ味にはなりません。国ごとの嗜好に合わせて味を変えていくケースもありますが、〈アサヒスーパードライ〉に関しては、どの国で製造しても全く同じ味わいになることを目指しています。そこで必要なのが「ビールの味を揃える」という技術です。具体的には、各国の工場の環境に合わせ、処方や温度条件、発酵条件を調整しますが、最も大変なのは製造前に行う「目指す味のすり合わせ」作業です。

おいしさを表すワードは国によって異なるため、「キレ」や「コク」など、日本ならではの表現は海外では伝わらないこともあります。そのため、試作しては飲んでもらい、フィードバックを繰り返すことで理想の味を共有していきます。「ビールとはこういう味」といった考え方も国によって異なるため、普段から現地のビールを飲んで嗜好やトレンドをキャッチしておくなど、各国の食文化に触れることも重要な仕事の一つなのです。

また、〈アサヒスーパードライ〉のグローバル展開における取り組みとして、近年は「飲むとき品質」の向上に最も力を入れています。ビールは製造から時間が経過し酸化すると、徐々に風味が落ちてしまいます。流通網が発達した日本と違い、海外ではビール製造からお店に届くまでの流通時間が長くかかってしまうエリアも。そこで、お客さまが飲むその瞬間まで鮮度を保つため、長年の研究成果を活かした具体的な対策として、「酸化の原因となる物質を減らす方法」と「酸化しにくくする方法」の2つのアプローチを実施しています。さらに、各国の鮮度保持技術について情報交換をすることで、より効率的な課題解決にも取り組んでいます。これはグローバル展開しているビール会社の特権とも言えるかもしれません。

国ごとで異なる嗜好と変化するトレンド

グローバル展開を進めるなかで、技術者たちは製造現場だけでなく、街のなかでも様々な嗜好の違いに出くわします。食文化とお酒の嗜好の関係性は深く、チェコやドイツに代表されるように、肉をたくさん食べる国はビールの消費量も多い傾向にあります。

例えばチェコは、一人当たりのビール消費量世界一を誇っており、一方のドイツではビール飲用が生活の一部になっていて、平日のランチにビールが出てくることもよくある光景。日本の日本酒文化以上にドイツのビールは人々の生活に馴染んでいるのです。また、日本では「とりあえずビール!」という言葉があるくらい、どんな料理にもビールを合わせる文化がありますが、イタリアではそれがワインにあたるのだとか。

ドイツ、ミュンヘンにて。現地の技術者と共に

さらにビールの味の嗜好性についてお話しすると、各国の気候も密接に関係しています。暑い国では、ゴクゴク飲めるライトな口当たりのビールが人気です。一方で寒い国では、味が濃く香りも強いビールが好まれます。国によっては原材料を一番重視する地域もあり、例えばドイツは国産原料を使った、麦芽だけでつくる苦味の効いた濃いビールを好む傾向があるそうです。

国ごとの環境や嗜好を反映し、その国独自のお酒文化が栄えている一方で、アルコールがもたらす良い面にフォーカスした「ノンアルコール飲料」の台頭も、欧州を中心に進んでいます。近年ではSNSによる情報伝達により、お酒の嗜好トレンドもすごいスピードで変化しています。特に数年前にはあまり注目されていなかった低アルコールや、ノンアルコールビールの人気が急激に加速中です。

これまでのノンアルコール飲料といえば「飲酒できないときにアルコール気分を味わいたい」という健康・運転対策や、「酔いたいけど酔えない」ときのニーズを満たすための商品でした。しかし近年、「酔わなくてもいいので、もっと自由にお酒を楽しみたい」という逆の発想でノンアルコール飲料を選ぶ人が増えており、若者たちの間ではその考え方を「ソバーキュリアス」と呼び、新たなムーブメントとして広がっています。

新たなニーズに寄り添い、おいしく飲んでもらうために

近年、各国の酒類メーカーは、新たなニーズを受け、ビールの代替品ではなく、「おいしさ」で選んでもらえるノンアルコールビールをつくりたいと考え、技術開発に取り組んでいます。そこで注目されているのが「脱アルコール法」という製造法です。

「脱アルコール法」は一度ビールを製造した後、フィルターろ過や、蒸発処理でアルコールを除去する手法。ビールをつくってからアルコールを除去するため、香料での再現が難しい発酵による香味がそのまま残り、ビール本来の風味を楽しめるのが最大の特長です。また、人工香料などを使わなくてもよいため、ナチュラル志向の人々にも受け入れられやすい点も強みです。その他ノンアルコールビールには、炭酸や香料を調合してつくる「調合法」、アルコールを生成しない微生物で発酵させる「酵母法」などの製造法もあります。

アサヒグループでは、最新の需要に合わせて、欧州に向け「脱アルコール法」を活用したノンアルコールビール開発を進めています。この開発が成功すれば、いずれ日本でも新しいノンアルコールビールをお披露目する日が来るかもしれません。グローバル展開は、すでに各国に根付いている文化・嗜好に入っていくという難しさがつきもの。技術者たちは、それぞれの国のお酒文化に割り込むのではなく、現地で愛される味を尊重し、変化するトレンドをキャッチしながら、新たなシーンで飲用される商品の開発・展開に挑んでいます。今後も技術開発を通じ「こんなビールがあるんだ!」という驚きと、変わらないおいしさを世界中に発信していきます。

日×豪 醸造技術のコラボ〈Two Suns〉

〈Two Suns〉は、オセアニア地域で酒類事業を展開するAsahi Premium Beveragesより発売している、日本と豪州の醸造技術者が共同開発したビールです。すべて豪州産の原材料を使用し、アサヒビールの保有するビール酵母を用いて発酵させています。この商品はアサヒグループ初の「Easy Drinking」カテゴリー商品で、開発は手探りな部分もありましたが、日豪の技術者がアイデアを出し合い、それぞれの醸造技術を巧みに活かすことで、豪州の若い世代が好むすっきりと爽やかで飲みやすい味わいを実現することができました。

【話を聞いた人 】
アサヒクオリティーアンドイノベーションズ(株)
高橋  浩一郎 さん

関連リンク

■ビールの開発
https://www.asahigroup-holdings.com/rd/product/superdry.html