おいしさの安定供給が世界の嗜好を満たす「酵母エキスが照らす未来」

アサヒグループ食品が開発・製造を行う酵母エキス。酵母エキスはどのように活用され、世界の食文化に何をもたらしていくのか。酵母エキスの魅力を最大限に伝えるための「酵母エキスアプリケーション開発」に迫ると、未来の嗜好を満たす新たな可能性が見えてきました。

話を聞いた人

  • アサヒグループ食品(株)
    食品原料開発部

    村田 典仁さん

ビール製造から生まれた、天然由来の調味料

酵母エキスとは、酵母に含まれる成分を抽出したもの。栄養分や旨味成分を豊富に含んでいることから、調味料として広く用いられています。食品分野をはじめ様々な用途に活用される食品原料で、幅広い味わいを付与するだけでなく、酵母という天然素材を原料とする点からも注目を集めています。

原料となる酵母は糖を取り込み、アルコールや炭酸ガスを生成する「発酵」を行います。この発酵のチカラを利用してつくられるのが、酒類やパンなどの発酵食品で、酵母はビールの製造にも、もちろん欠かせません。長年、酵母エキスの「アプリケーション開発」という業務に携わる村田さんは、次のように話します。「ビール酵母は、ビールの主原料である麦芽に含まれる栄養をもとに発酵します。酵母はビールの完成と共に一度は役目を終えますが、取り出された酵母の中には、発酵の過程で蓄えられた栄養分や旨味成分がたっぷり。この旨味成分を抽出したのが酵母エキスです」。つまりアサヒグループの酵母エキスは、ビール製造の副産物から生まれたのです。

アサヒグループがビール酵母由来の酵母エキス製造を始めたのは1966年。加工食品や外食産業の発展と共に食品原料の需要は高まり、安全・安心の観点から天然由来の調味料である酵母エキスのニーズも増加しました。しかし、ビール製造の副産物であるがゆえに、ビール酵母から製造される酵母エキスの供給には限界があったのです。

そこでアサヒグループは新たな酵母エキスの開発に着手。「副産物ではなく、新たに選抜した酵母から酵母エキスを生み出せば、安定供給はもちろん、より様々な味わいを実現できます」。アサヒグループの研究所が保有する膨大な酵母ライブラリーから最適な酵母を選び出し、エキスの抽出方法なども細かく検討することで、豊富なラインアップを取りそろえることに成功。

そのなかでも、旨味の代表的な成分であるグルタミン酸を多く含む酵母エキスが〈ハイパーミーストHG〉です。旨味を高めると共に素材の風味を引き立て、なおかつ不要な臭いや酸味を抑えるマスキング効果も備えています。その他にも酵母エキスに風味を付与するなどの二次加工を施すことで、さらに多様な味わいをつくり出すことが可能になりました。

こんな味が実現!〈ハイパーミーストHG〉の調理例

「レトルトカレー」…旨味やコクを強化するだけでなく、スパイス感や野菜感、熟成感までアップ。さらにはレトルト臭を低減させます。

「ポン酢」…果汁由来の酸味が強化され、柑橘系特有の果汁感が増幅。同時に旨味やコクも強化され、おいしさ全体がアップします。

「ハンバーグ」…植物性タンパク質の臭いをマスキング。さらには旨味を強化し、肉感、ジューシー感、スパイス感などを引き立てます。

「黒酢」…酢酸特有のツンとした臭いをマスキング。先味、中味、後味の酸味が抑えられ、全体の味わいがおいしくマイルドになります。

酵母エキスの効果を伝える、アプリケーション開発

酵母エキスは企業向けの商品です。主に加工食品メーカーなどに提供していますが、味づくりのプロに対しても、酵母エキスの効果を的確に伝えることは、決して容易ではありません。

「お取引先さまに酵母エキスを提案する際、ひと口に『旨味が増します』『スパイス感がアップします』『酸っぱさを抑えます』と伝えても、味の感覚は人それぞれ。言葉だけでは微妙なズレが生じます」。このズレを解消し、酵母エキスによって生じる味わいの違いを最大限に伝えるために行っているのが、アプリケーション開発です。

なかでも代表的なのが減塩効果を伝えるためのアプリケーション。昨今の健康志向により、減塩を求める声は増していますが、一方で塩味は強く舌に訴えかけ、かつ塩味が素材の風味を引き立てることから、減塩の処方設計を躊躇する食品メーカーが多いことも事実です。

そこで開発されたのがコンソメスープを用いた提案方法。一般的なレシピ通りの量の塩を使ったスープ、そのレシピから減塩したスープ、そして減塩したうえで酵母エキス〈ハイパーミーストHG〉をプラスしたスープの3種類をつくり、提案時に試飲してもらうのです。「飲み比べれば、その違いは明らかです。豊富なグルタミン酸が旨味をアップさせ、同時に素材の風味が引き立つことから、減塩しても満足感が損なわれません」。つまりは言葉では伝えきれない味わいの違いを表現し、味覚によって実感してもらうことがアプリケーション開発の目的です。

他にも様々な料理を用いたアプリケーションを開発する村田さんですが、酵母エキスの効果を料理にのせ、的確に表現するには、食の知識が欠かせないと言います。今、人々に求められている食のトレンドを知り、その味わいがどう成り立っているのかを深く探ることが、おいしさを伝えるアプリケーション開発の土台なのです。

「アプリケーション開発」は専用キッチンで実際に調理しながら 味の調整を行います

酵母エキスが近未来の食糧危機を救う?

食にまつわる豊富な知識を必要とするアプリケーション開発。アサヒグループは海外でも事業を展開しているため、国内のみならず、世界の食の時流を読み解くことが欠かせません。

「世界を見渡して感じるのが、やはり欧米を中心とした健康志向です。特にヴィーガンのような主義の広まりは、日本よりもヨーロッパで顕著。そうした地域に根付きつつある代替肉などにも、酵母エキスが活用されています」。健康志向や食のこだわりに応じて肉や乳製品の摂取を避けながらも、その味わいを求める。これも一つの嗜好なのかもしれません。多種多様な味わいを表現できる酵母エキスは、その技術によって人々が求める嗜好を満たしています。

また、海外から新たに注目されているのがコク味。「このコク味という概念、かつては英語で“リッチ”や“フルボディ”と訳されるのが一般的でしたが、最近では旨味と同様、“KOKUMI”と表現する外国人が増えています」。濃厚な深みを感じさせるコク味は、食事の満足感を増幅させます。まさに嗜好性の高い味わいですが、ここでも素材の風味を底上げする酵母エキスが力を発揮します。

酵母エキスは旨味をアップさせるものだけでなく、ミルク感やチーズ風味を高めるもの、ベーコンやカツオ節などスモーク風味を付与するものまで様々で、現在は約200種類をラインアップしています

さらに村田さんは近い未来に危惧される食糧難も見据えているとか。酵母エキスは、そのような社会課題に対して、どんな解決策をもたらすのでしょうか。「大げさに聞こえるかもしれませんが、日本における漁獲量の減少を例にしても、食糧難は今後、十分に起こりうることです。最近ではエビやカニの不漁が伝えられていますが、これらは料理を支える大事な食材。味わいを豊かにする出汁としても欠かせません」。魚介のみならず、例えば家畜の伝染病が各国同時に発生すると、動物由来の原料も不足します。

「酵母を培養すれば、酵母エキスはいくらでも生産することができます。そのため、味わいを付与する様々な原料の代替として、安定的に提供することができるのです」。つまりアサヒグループの酵母エキスが目指すのは、おいしさの安定供給。ビール製造の副産物から始まり、進化を続けてきた酵母エキスが、未来における人々の嗜好を満たしてくれるのかもしれません。

関連リンク

■アサヒグループ食品 〈酵母エキス調味料〉サイト
https://www.asahi-gf.co.jp/products_feature/yeast-extract/

■酵母エキス調味料の開発
https://www.asahigroup-holdings.com/rd/product/hypermeast.html