生物多様性
レポート

アサヒの森の生物多様性における
特徴の把握と評価のため、
植生・生態系モニタリング調査を
行っています。

調査の概要

調査の主旨

2010年3月に制定したアサヒグループの「生物多様性宣言」に示された3つの基本方針と9つの行動指針を具体的に実施するために、アサヒの森の森林生態系に関するモニタリング調査を2002年・2009年そして2010年〜2012年にわたり実施しました。これらの調査結果を基に、適切な森林管理が生物多様性の保全の上でも重要な役割を担っていることを示し、情報発信に役立ててまいります。

生物多様性宣言について

調査の地域

調査は、広島県庄原市及び三次市内に位置するアサヒの森の15の各山々にて実施しました。

調査の地域
調査の地域

調査の方法

地元の生物に関する地誌資料などから、アサヒの森に生育・生息している可能性のある動植物の種リストを作成、航空写真や既存資料、さらに実際に現地を歩いて植生図を作成しました。鳥類は、スポットセンサス法という定量的な方法と、山を歩きながら見つけた鳥類を記録する方法(任意観察法)の二種類の方法で観察します。哺乳類は、足跡や糞などから生息情報を集めたり、センサーカメラで撮影を行いました。

文献資料調査文献資料調査
動物調査動物調査
植物調査植物調査

調査の結果
「たくさんの植物・生物が生存している」

多くの植生・生物が存在していた

実地観測・調査の結果、これまでに植物668種、鳥類60種が確認されました。このうち植物4種、鳥類12 種は重要種に指定されています。これらの数値は、スギーヒノキ植林地が中心の環境としては、大きな値です。また、植物、動物ともに外来種が少なく、日本在来の生物が多く見られました。

※重要種…環境省や広島県のレッドデータブック、国の天然記念物や種の保存法で指定された種のこと。

森の植物・生きものたち
アサヒの森Photo Book

植物
668
鳥類
60

観察された植物例

ミツマタ
ミツマタ
ヤマホトトギス
ヤマホトトギス
タマゴタケ
タマゴタケ
ヤマアジサイ
ヤマアジサイ
ツルリンドウ
ツルリンドウ

観察された生きもの例

ヤマガラ
ヤマガラ
カケス
カケス
カスミサンショウウオ
カスミサンショウウオ
ツキノワグマ
ツキノワグマ
ノウサギ
ノウサギ

林業経営を目的としたスギ-ヒノキ植林地であるアサヒの森。
しかし、今回の調査でそこには自然林以上に多様な植物が繁茂し、生物が棲息し、また飛来することがわかりました。
この豊かな生物多様性が保たれる理由について、調査の結果と専門家の意見をもとに考察してみましょう。

10のチェックポイントによる検証

生物多様性が豊かであるならば、生物の生息状況について設定した10個のチェック項目の多くを満たすだろうと考えました。実際には10項目をほぼ満たしているので、生物多様性が豊かであるといえます。

  1. 林床の下草は発達しているか?
    よく発達している
  2. 稀少な鳥類が生息しているか?
    多数生息している
  3. 鳥類の種類は多いか?
    かなり多く生息している
  4. 豊かな森にすむ哺乳類がいるか?
    生息している
  5. 植物の種類は多いか?
    多数生育している
  6. 食物連鎖の上位クラスの動物がいるか?
    猛禽類が生息している
  7. 昆虫を食べる鳥類が多数いるか?
    多く生息している
  8. 人工林と自然林の種類数の差が小さいか?
    差が小さい
  9. 稀少な植物が生育しているか?
    生育している
  10. 外来種が少ないか?
    とても少ない
10項目のチェックポイントによる検証では
10項目すべてを充たしている。

専門家の意見

アサヒの森を視察した山岸哲先生(大阪市立大学名誉教授)は、枝打ちや間伐など林業の施行が適切に行われているために多様な鳥類が生息しているのだろう、とコメントされました。

山岸 哲 先生
大阪市立大学名誉教授、兵庫県立コウノトリの郷公園名誉園長、山階鳥類研究所元所長、 新潟大学朱鷺・自然再生学研究センター元センター長
管理が行き届いている林は、
林内が明るく下層植生も発達し、
複層林化している。
一方、手入れされていない植林地は、
暗く植生も乏しい。
自然林に比べて、
人工林は生物の豊かさが大きく劣る、
という常識は
必ずしも正しくないかもしれない。
アサヒの森のほとんどは
スギ-ヒノキ植林地であるけれども、
一般的なスギ-ヒノキ植林地と比べると、
鳥類の種数が非常に多い。
行き届いた適切な管理が豊かな生物多様性を
育んでいるものと考えられる。
チェック10項目の検証と、
専門家による意見を総合的に判断すると
「アサヒの森は、生物多様性が
非常に豊かである。」

と結論されます。

調査統括
「なぜアサヒの森は生物多様性が豊かなのか」

地理的に多様な環境であること

標高270mの戸谷山から標高1,240mの俵原山山頂まで、様々な標高帯に分布しています。このため人里の様な所から、中間的な山域、深い山奥にかけての多様な地理環境が含まれています。特に北部の山林は日本海側の気候区分に含まれていて、多雪地帯に特有の植物が多く生育しています。このような地理的な多様性が、多様な生物が生息・生育できる環境の基盤となっています。

適切な森林管理

一般的に、枝打ちや間伐等が適切に行われず放置されたスギ−ヒノキ植林地は暗く、林内に生育する植物の種類が少ないと言われています。アサヒの森は、植林地ではありますが、計画的な間伐が行われ適切に管理されているので、林内は明るく、光が射し込み、下層植生も豊かになっています。 こうした多様な植物の存在は、植物を食物や生活環境の一部として利用する昆虫や動物など多様な生き物の生息を支えています。

暮らしや自然を支える森づくり

外来種の少なさ

セイヨウタンポポやブラックバスのように、海外から持ち込まれた後、日本国内で増加し、日本在来の生物を駆逐してしまう種がいます。調査結果から、アサヒの森の植物や動物には、外来種がとても少ないことが分かりました。このため、外来種との競争に負けやすい在来種も生き残っているのです。

外来種の少なさ